Musica Cuore Flute Ensemble

ムジカ・クオーレ フルートアンサンブル

 

宮本明恭 Akiyasu MIYAMOTO

1936年長野県須坂市出身。

子供の頃からピアノとヴァイオリンを学び、52年東京都立駒場高校(現都立芸術高校)音楽科へピアノ専攻で入学。

3年次にフルートへ転向し東京芸術大学へ進学、吉田雅夫氏に師事。

1957年現日本音楽コンクール管楽部門第1位入賞。

1958年よりプラハ音楽院に留学、卒業後スイス・チューリッヒにてA.ジョネ教授に師事。

1965年より1986年までNHK交響楽団に在籍、首席フルート奏者を務めた。

その間、J.S.バッハの「音楽のささげもの」を全曲編曲、日本初演をし、1966年から毎年リサイタルを開催する他、

15年にわたり20回の「古典フルート音楽連続演奏会」や5回の「20世紀のフルート音楽」シリーズを企画、

NHK教育テレビのフルート講師、「プラハの春」国際コンクールの審査員、フィンランドにおける音楽祭でのソリスト等を務め、2008年夏から、ヴァイオリン奏者の石川 静氏のグループと共に、プラハでセミナーと演奏会を行っている。

多くの作品を初演し、《平尾貴四男作品集》のレコーディングにより文化庁芸術祭優秀賞受賞。

現在ムジカ・クオーレフルートアンサンブル指揮者、N響団友、国立音大名誉教授。

音楽閑話

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宮本明恭氏によるコラムのページです

おんがくひまばなし

Vol.7 2018.3

⦅マエストロJ.カイルベルトを偲ぶ⦆
 N響には、名指揮者が数多く客演している。
私がN響に在籍していたのは、21年間で、さほど長くはないが、日本全体が様々な意味で安定して来て、何と言っても経済的に成長期に当っていた事から、それまでは、考えられなかったソリストや指揮者が多く招聘された。
N響にもつぎつぎと世界中から指揮者の客演があり、今現在もそれは続いている。その中で今でも心に残っている指揮者は、カイルベルト、スィートナー、マタチッチの3マエストロである。
中でも1965年初来日したJ.カイルベルト氏からは、多くの事柄を学び、今だに私の音楽に対する考えの基盤の一つになっている。氏は1908年の生まれで、来日当時は57歳だった。しかし、中学高校の頃からモーツァルトやワグナーのレコード(SP)で彼の音楽に親しんでいた私には、氏はもっと年輩の様に思えた。実際はいつもグレーのダブルの背広をきちんと着用して物静かに指揮台に立つマエストロは、今思うともっと年輩に見えた。
N響のメンバーは練習開始の約1時間前には全員勢揃いしていた。練習ホールのあの扉から本当にあのカイルベルト氏が出てくるのか、かたずを呑んで入り口の扉を見つめて居た。
実は私はその2年前ミュンヘンでマエストロが指揮をした“ラインの黄金”を聴くチャンスに恵まれた。
当時はまだ留学生で、留学地のプラハからカイルベルトのワグナーが聴きたくて、ミュンヘンに行き郊外の街、アウグスブルグの知人の家に泊めてもらっていた。カイルベルトのワグナーを聴いた夜、アウグスブルグの駅から6キロ程もあった知人の家まで興奮して夜道を歩いて帰ってしまったのをなつかしく想い出す。
 マエストロの練習は口数が少なく、タクトで全てを示す。と言っても派手に手を動かさない。後ろから見ていると体の外に棒が出ないと言うのが定説になっていた位だ。
耳も良かった!リヒアルト・シュトラウスの楽曲を練習中、ほぼ全員で演奏している折、内声の違った音を瞬時に指摘するのには敬服した。何日も練習を続けていると練習所に行くのが嫌になってしまう事がある。「またあの指揮者の顔をみるのか…」「またあの声を聞くのか…」と気が重くなる。しかしマエストロ カイルベルトとの練習時には、そんな事は一度も無いばかりか、帰宅してもスコアを見たり、自分の楽譜にメモを入れたり、いつもマエストロが傍に居る様な気がして幸せだった。
モーツァルトの変ホ長調のシンフォニーを演奏した折、一日目の練習が半日で終わった。私は帰宅して自分のパート譜を自筆で書きそれで演奏会をした。何と言う事はないことだが、感激と興奮と情熱は、本人にしか分からない事である。
 楽団員にもよるが、多くの奏者は「指揮者は怖い」「指揮者は怒る」と言った印象がある。だが、カイルベルト氏に関してはその様な事はまったく無かった。いつも感じる事は「反省」である。「これで良いのか…?」と言う疑問が頭に浮ぶ。「マエストロに気に入られる様に演奏しよう」ではなくベートーヴェンやモーツァルトに近づこうとする気分の高揚を感じさせてくれるのだ。本当にすばらしい音楽家だった。
マエストロの日曜日の練習は必ず午前中で終る。後で、マエストロは敬虔なクリスチャンで、日曜日を安息日と考えていると言う事を知った。愛読書はトーマス・マンだったそうだ。
 氏の音楽は、優しさに満ち、幸福感と強い力を与えてくれる様に感じた。派手な表現は無いのに説得力があった。あの「サロメ舞曲」の精神の高ぶりは、もう生涯味合う事が出来ないだろう。マエストロ カイルベルトのタクトで演奏出来た事を、音楽人生の宝としている。
 カイルベルトの音楽は様々あるが、歴史的録音とされているウェーバー作曲 歌劇「魔弾の射手」全曲、1958年録音、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団を是非多くの人達に聴いて欲しい。